…漆 いろいろ…


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(らっきょう事件)「すべらない箸」

・娘が、二歳の時から私がつくったお椀と箸を、使わせています。テーブルの上に、桃屋のらっきょうのビンを、だしておいたら自分で、蓋を開け、中のらっきょうを全部だして喜んでいました。思わず「偉い。」と言ってしまいました。すべらない箸の力を、見せてもらいました。
その娘、今年で二十八歳。 >>すべらない箸のお話

(似て非なるモノ)

・二十年ぐらい前、一年ぐらい仕事場を借りていたことが、ありました。近所の人で、塗り物をしてみたいという人が、箸をつくることになりました。家族四人+一人全部で五、六膳。毎日三十分ぐらいの作業でした。一月半ぐらいで、仕上げることができました。後半は、漆かぶれで苦労しましたが、少し手は、貸しましたが、仕上げることが、できました。
 長男の人が、結婚することになっていたので、お嫁さんのぶんも作ったのです。勤め先が、新潟なので、持たせてやることにしました。ところが、お祝いに、同じような箸をもらったそうです。もらった箸を、新潟へ持ち帰り、つくった箸は、帰郷したときに使うことにしたそうです。
 お盆に一週間ぐらい弘前にいて、何日かたったとき、「この箸、新潟で使っているのと違う!」と言ったそうです。それで、私のところへ来て「どこが、違うの?」という話になりました。「売ろうとしてつくったモノと、使って欲しいと思って、つくったモノは、違うでしょう。息子さんに、使って欲しいと思ってつくったんでしょう。」と答えました。妙に納得されてしまいました。


(先割れスプーンと箸) 

・娘が、小学校に入学し、給食が、始まりました。私は、先割れスプーンは、すごい道具だと今でも思っています。ただ、箸と併用することによって、二,三倍の機能を発揮するモノだと考えています。
 と言うことで、箸持参で学校へ行っていました。箸を持ってきているのは、娘一人だったそうです。箸と先割れスプーンを使い、食べている娘の姿を、担任の先生が、見つけ「いい箸使っているね。」と声をかけてくれたそうです。「お父さんがつくってくれたの。先生のぶんも作ってもらおうか。」と約束してきたそうです。「それは、おまえが、約束してきたんだから、夏休み自分で、つくりなさい。」と言い、夏休み中、毎日、少しずつ作業をして、完成させました。もちろん手は、貸しました。
 五、六年前、町でその先生にあったとき、まだあの箸を使っていると言うことでした。

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(不思議な使い手)

・青森のデパートで、展示会をしていたとき、不思議な人に会いました。
毎日、会場に来て、お椀を一〜二個買っていくのです。六日間でしたから十個ぐらい買ってくれました。はじめのうちは、声をかけても何も言ってくれませんでした。最終日に来たとき、今度弘前へ行ったとき、寄ってもいいかと聞かれました。もちろん、「いいです。」と答えました。 一週間ぐらいして、旦那様と二人で、家まで来てくれました。お話を聞くと、転勤族で、弘前にもいたことがあると言うことでした。津軽塗も好きで、たくさん買ったと言うことでした。でも、作り手から直接買ったことは、無いと言うことでした。作り手が、解っていることは、安心できると言われました。少し、嬉しくなりました。初めて展示会を、するとき、”あたりまえのモノが、あたりまえの値段で、直接使い手と作り手が話し合い、納得して使ってもらいたい。”という気持ちが、あったからです。それからは、ほとんど、私のモノのコレクターになってくれました。
 そんな不思議な使い手第一号です。
それからは、十人くらいでしょうか、そんな使い手が、今、おります。

(公募展て何?)

・私のつくっているモノは、公募展には、向いていないと、はじめから自覚しています。可愛いわけでも、おもしろいと言われることも、ほとんどありませんから。その上、公募展のために、何かつくろうという気持ちに、一回もなったことがありません。  仙台で、次の日から始まる展示会の展示を終わり、手伝ってくれた人達と、一杯のみに出かけました。そこで、公募展の話になり、「私は、いやだ。公募向きではないから。」と言ったら「一回もださない人が、いやだなんて言うな。」と言う人が、居て、その言葉におされ、出さなければいけないようなことになりました。
 「日本クラフト展」東京、大阪、福岡とまわり、出品したモノが、帰ってきました。やはり、何の反応もなく、むなしく帰ってきました。雪も溶けて、少し暖かくなった頃のある日曜日、朝八時に電話が鳴りました。福岡の人からの電話でした。クラフト展に出したモノが、「まだあるか?」と言う問い合わせでした。「あります。」というと「ああ、良かった。」というので、訳を聞きました。
 話は、こういうことでした。福岡のデパートで、クラフト展を友達と見に行ったそうです。その時、私のモノを見て、少しいいなと思ったのですが、図録を買って帰ったそうなのです。昨日その友だちが、遊びに来て、図録を見ながら、話をしたそうです。その夜に夢を見て、その夢に私のつくったモノが、出てきたそうなのです。朝早くから、電話したかったのですけど、八時まで待って電話したと言うことでした。「夢にでるとは、ちょと怖い。」と私が、つっこんであげました。こんな事は、万に一つでしょう。  それからは、又元に戻り、自分の展示会中心に、しました。今もって、公募展のなんたるかは、理解できないでおります。自分も自分がつくるモノもなじまないのでしょうか?そんな気がします。


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(興奮するのは、体に良くない。)

・青森での展示会の時、こんな事もありました。
 初めのうちは、普通に、見ていた一人のお客さん、だんだん興奮してきて、どうしたのか尋ねてみると、一個のお椀を、選ぼうとしているうちに、あれにしょうか、これにしょうか迷ってしまい、そのうちに訳が分からなくなったと言うことなのです。今日は、止めて、あす又来てくれるように、お願いして帰ってもらいました。  次の日、一番に来て、はじめに選んだ、お椀をもって後は、見ないで帰っていきました。又、見ると興奮しそうだといって・・・


(私が、ぬりものやの訳 )

・ある人が、紹介したい人がいると言うことで、会うことにしました。
「こちらが、焼き物をしている・・さんです。」と紹介してくれたので、私が、「焼き物やさんですか。」というとその人は、いやな顔をしました。紹介してくれた人もそれを見て、「陶芸家の・・さんです。」と言い直しました。その後は、想像どうり気まずい状態になりました。その時思いました自分には、芸は、ないしー。これからは、ぬりものやさんになろう。その後、術も、使えないことがわかりました。


(餅は、餅屋 )

・三十数年前、浄法寺に、漆かきの見学に行ったとき、モノ作りとは、全然違う分野だと思いました。あれは、林業です。
 漆かきの人達も、もちろん植林にも力を入れていました。その時、「植林の計画が、あるのなら我々に任せて欲しい。」と言われました。「営林局も同じだから、津軽塗の方から、言ってくれると話が早い。」とも言われました。
 二十代の後半の頃、NHKのラジオの取材がありました。津軽塗の取材でした。その時、ちょうど漆の植林の話があって、先輩が、「育つまで、十五年ぐらいかかるから、私たちは、使えないけど若い人のために植林するのです。」と言いました。それで、浄法寺の話を思い出して、その話をしました。やはり、まずい状態になりました。次の日、NHKの人が、個人的に話を聞きに来てくれましたけど。  その後、何カ所かに植林した漆は、一カ所だけ、浄法寺の職人さんに、漆かきをしてもらったみたいです。もちろん、私の所には、回ってきませんでした。  漆を、植林するのは、悪いことでは、ありません。ただ、素人が、やるとパフォーマンスになってしまわないでしょうか?ここは、やはり漆かきの人に、任せるべきだと、今でも思っています。


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(まがいものですか?)

・仙台での展示会の時、熱心に見て買ってくれた紳士が、一言「これ、まがいものですか?」 思わず、「そうです。」と喉まで、でかけました。「まがいもののまがいもの。」と言いそうになりました。「どうしてですか?」と尋ねると、「三越では、倍の値段だ。」と言いました。「お店で買えば、そうなるでしょう。」と答え、流通の話をしても、なかなか納得してもらえませんでした。
 私のモノを高いという人もいますし、まがいものと思う人もいます。なかなか値段の付け方は、難しいです。


(プラスッチクだ。)

・青森での展示会で、おばさん二人連れ、お椀をもって「これ プラスチックだよ。」小耳に挟んだので、「木製です。」と答えました。下地の行程を見せながら、説明しましたが、「木でこんなに薄くできるの?」とまだ納得していない、説明もほとんど聞いていない。そして帰るとき、お椀を、一個持ち、「やっぱり、プラスチックだ。」思わず心の中で「おい、おい、それは、ないでしょう。」


  (餅は、餅屋 その二 )

・企画展の打ち上げで、三十代の人が、「工藤さん、漆やってるのなら、漆植えるところから始めなければ駄目でしょう。」と話しかけてきました。「それは、私のやる仕事ではないし、専門家に任せた方が賢い。」と答えましたが、なかなか引き下がらない。「手仕事は、全て、自分でやるのが、本当ではないですか。」「まー、それが、理想でしょうね。」だんだん、熱くなりそうなので、どうして、漆を植えるところからしなくては、いけないのか聞くと、TV でどこかの人が、自分で植えた漆を使い、仕事をしているのを見たと言うことでした。「と言うことは、その人は、何百本も漆の木を持って、自分で漆かきをして、使い道の違う漆を自分でクロメて仕事をしているのでしょうね?すごいですね。私には真似できません。」と言うことで、話を終われせました。  この話ってほんとですか?
私は、漆屋さんから、初辺と上辺を買って使っているんですけど。漆を採るのと漆を使うのでは、 やはり分野が、違うと思うんですが?


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